“無料給水”の波? ニューヨーク市でバー&クラブへの給水ステーション設置義務化が議論に
2026.01.16
世界最大級のナイトライフ都市・ニューヨークで、バーやナイトクラブ、大規模イベント会場に「無料給水ステーション」の設置を義務付ける動きが本格化しつつある。発端となったのは、ニューヨークのナイトライフ現場で活動する救急救命士であり、ハームリダクション活動家でもある Brian Hackel(ブライアン・ハッケル)氏の問題提起だ。
クラブやフェスにおける熱中症、脱水、薬物との相互作用による医療事故を日々目の当たりにしてきた彼は、「水へのアクセスはエンタメではなく、命に関わる安全インフラだ」として、市議会に制度化を強く求めている。
現場で起きているリアルな医療リスク・・・なぜ“無料の水”が議論に?
Brian Hackel 氏によれば、現在ニューヨークで「十分な飲料水の提供」が明確に義務付けられているのは飲食店のみであり、ナイトクラブや音楽イベント会場には、来場者が無料で容易に水を補給できる手段を提供する法的義務がほとんどないという。
建築基準法により給水設備の設置が求められるケースもあるが、その基準は現代のクラブカルチャーの実態に合っておらず、「500人あたり1つの給水機」という極めて不十分な状況になることもあると Hackel 氏は指摘している。
その結果、多くの来場者はトイレの蛇口でボトルを満たしたり、高額なボトルウォーターを購入したり、無料の紙コップをもらうために長いバーカウンターの列に並ばざるを得ない状況に追い込まれている。
EDMイベントや満員のクラブでは、高温・高湿度・長時間の身体活動が重なり、脱水や熱中症、意識障害が発生しやすい。市の保険当局による過去の調査でも、こうした環境が重篤な医療事故の引き金になってきたことが示されている。
現役救急救命士が語る、現場の実態
Hackel 氏は Reddit の r/avesNYC にて、自身の経験をこう語っている。
”私はこの街のナイトライフ空間で救急救命士として働いているので、この取り組みを強く求めている。あらゆる種類の会場で、あらゆる季節、あらゆる天候で働いてきた。ナイトライフの場で数十件、あるいは数百件の医療緊急事態に対応してきたが、無料の水へのアクセスがあれば、症状の重さも必要な治療レベルも大きく下げられると断言できる。”
さらに、こう続けている。
”救急車でERに運ばれるはずだったケースが、自力でUberに乗って受診できるレベルで済むなら、それは本人にとっても、会場にとっても、医療システム全体にとっても大きなメリットになる。”
Hackel 氏はこの主張を Change.org での署名活動や、給水所を模した衣装を着て市議会の委員会に出向くパフォーマンスなどを通じて広め、ついにニューヨーク市議会での政策議論にまで持ち込むことに成功している。
「ビジネス」と「安全」のせめぎ合い。日本のシーンにも通じる構造的問題
この問題は、実は日本のナイトライフシーンとも無縁ではない。近年の猛暑化により、屋外フェスや満員のクラブでの熱中症リスクは確実に高まっている。
日本のクラブやフェスでは、基本的に来場者は水を購入する必要があり、混雑時には長蛇の列が発生したり、フロアから離れられず水分補給ができないことも少なくない。一方で、会場側にとってドリンク販売は重要な収益源であり、「無料給水」は売上と直結するため導入には慎重にならざるを得ないという現実もある。
ニューヨークでの議論は、ナイトライフを“娯楽”ではなく“公共空間”としてどう守るかという、世界共通の課題を突きつけていると言えるだろう。
もしニューヨークで「無料給水ステーション義務化」が実現すれば、それは世界のクラブカルチャーにおける安全基準を大きく塗り替える一歩になる。
音楽を楽しむための空間を、命を守る空間へ。
この動きが日本を含む世界のナイトライフにどんな影響を与えるのか、今後の動向に注目したい。


